日々雑感

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中村屋サロン美術館へ

 皆さんは、美術館と聞いて、どのような景観をイメージするでしょうか?

 今週末は、大都市に潜む美術館を訪れました。

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 皆さんは、美術館と聞いて、どのような景観をイメージするでしょうか?


 ○ 閑静で落ち着いた街並み
 ○ 大きな公園や公共の広場などがある市民の憩いの空間
 ○ レンガ調の建物や近代建築が並ぶお洒落なビジネス街 

はたまた
 ○ 自然や歴史を感じさせる情緒溢れる街並みなど
大体有名な美術館を思い浮かべると、こんな感じでしょうか。

 

しかし、実は繁華街や大都市のビルなどに居を構える美術館は少なくありません。

この中村屋サロン美術館もそのような美術館の一つであり、美術館とは一見縁遠そうな新宿の繁華街にひっそりと、しかし凛と立っています。
新宿駅を降りてすぐ、有名なアルタ前を過ぎ、いつの曜日や時間帯に行ってもすれ違う人の波を避けるのが難しい、にぎやかな通りを抜けると、中村屋のビルと看板が目に入ってきます。
ベーカリーやレストランが入るビルの3F。エレベーターを降りると、突然静かなフロアにこの美術館が訪れる人を待っています。

常設展だけだったこともありますが、入館料はなんと300円!

ちなみに年間パスも1000円と非常にリーズナブル。

値段の問題ではありませんが、それでも嬉しい破格の安さです。

私のように新宿に日常的に来る用事がある人は、気軽に足を運んで少し休憩したり時間をつぶしたりするのにもちょうどいい空間かもしれません。

私は学生時代から日常的に新宿を使うのですが、この美術館を知ったのはつい最近、訪れたのは今日が初めてでした。もっと早く知っていればと思いました。

 
この美術館は、生い立ちも興味深いです。

そもそも中村屋とは、すでに書いたように飲食業界。

アパレルとか美容業界ならビジュアルという観点で親和性が高いことは想像に難くないですが、なぜ飲食店が美術館?と最初はいぶかしみました。
新宿の街並みには欠かせない「中村屋」が創業したのは明治の後半、1901年。
創業者の相馬夫妻が芸術に深い造形を有していたことから、中村屋には芸術家が集うようになり、やがて彼らの創作活動の場をも提供するようになりました。
いつしかそんなお店は「サロン」と呼ばれるようになったそうです。
その作品を集めてできたのがこの中村屋サロン美術館です。

 

文化に理解を示す富豪や実業家が、その財産を投入して築いたコレクションがベースになっている美術館はよく聴きますが、こうして芸術家との等身大の付き合いの中で美術館やコレクションが形成されたことは、非常に心あたたまるストーリーです。
私は、中村屋で食事をとったことはないのですが、きっと、このお店のサービス全体にも、同じような美意識が貫かれているのでしょう。


さて、そんな美術館の作品ですが、数は少なくこじんまりとしつつも、風景画・人物画を中心に落ち着きのあるコレクションを楽しめます。


写真の女性画は、本美術家のコレクションの中心人物である中村彝の「少女」です。

当時としては珍しかったであろう洋風の部屋において、ピアノを思わせる家具にもたれかかった少女。
ひじの下には、一冊の本が置いてあります。
表層的な感情表現は見られませんが、表情も肌も健康的で明朗そのもの。眼差しははっきりと一点を見つめ、モデルと画家との周辺の空間に奥行きを感じさせます。
頭部にはブローチがさしてあり、そこからゆったりと長髪がおろされています。
着ている洋服は細部は判別しにくいですが、ゆったりとした部屋着のような趣。
これらの佇まいと、そしてさりげなくはだけた胸元が、この空間が非常にプライベートなものであることを示唆しています。
中村屋創業者夫妻という知己を得たことによって創作活動を許された画家の、一家への思いがオマージュのように滲み出た作品ではないかと感じます。

その他も、安心して観ていられる落ち着いた雰囲気の風景画や人物画が多い印象でした。

 

総じて、

 ○ アクセスのいい立地
 ○ 比較的、安価に入れる
 ○ 場所としてのストーリー

という意味で、都市型美術館の一つの形ではないかと思います。

当たり前ですが、アートは大型展覧会だけでも、芸術祭だけでもありません。
隠れた個性的な美術館探しも一つの楽しみでしょう。

皆さんの、唯一無二の美術家は、どこですか?

 

中村屋サロン美術館HP

www.nakamuraya.co.jp