日々雑感

アート情報を中心に、発信しています。その他、旅のレポートやブックレビューなど。

山口大学 卒業制作展へ

近所の市民会館で開催された、山口大学教育学部美術教育科卒業制作展を訪問しました。
フリーで入れる卒業制作展は、個人的に好きな企画です。

f:id:stephanetanguero:20190223161224j:image

 


f:id:stephanetanguero:20190223161235j:image
f:id:stephanetanguero:20190223161239j:image
f:id:stephanetanguero:20190223161229j:image


無論、お得なのは間違いないけれど、決してフリーだから行くというわけではない。
自分と同世代、そしてそれより若い学生が実際に制作をしているということで、今まさに活動している人の息吹を感じられる。
また、テーマごと意味づけをされてきちんと並べられている展覧会の作品と違い、ある意味で商業的なプレッシャーからは自由に、学術的観点と個人の制作意欲だけを頼りに並べられているので、より個人の制作の動機付けがダイレクトに伝わってくる気がする。
そんな理由で、こういう場が好きなのである。
こういう観点は、必ずしも卒業制作展を見るようになった当初から意識していたわけではないのだが、同じような卒業制作展に通ううちに少しずつ感じるようになっていったことである。


f:id:stephanetanguero:20190223161336j:image
f:id:stephanetanguero:20190223161322j:image

f:id:stephanetanguero:20190223161408j:image

作品であるが、当然ながら一貫したテーマのもとに統一されているわけではなく個人個人ごとにバラバラである。
絵画それも人物画から抽象画、彫刻、陶芸、工芸(家具など)と多岐にわたる。
各人が自分の専門分野、興味のある分野を選んで制作しているさまがうかがえる。
自分としてはもともとの興味範囲もあるが、特に人物画と抽象画が、製作者の意図と感性が感じられて気に入った。

また、卒業制作展ということで、作品だけではなく幾本かの論文が読めるように配列されていたのも特徴である。

f:id:stephanetanguero:20190223161438j:image
f:id:stephanetanguero:20190223161443j:image
研究論文と作品が共に展示されていた学生もおり(普通美大生って両方作るのであろうか?お疲れ様です)、特に本人の興味関心と「なぜこの絵を描いたのか」「これを描いて何がしたいのか」が非常に強く伝わってくる。
ある学生さんは、古典的な人物画の変遷と比較しながら自己の自画像作成へ向けた取り組みを振り返り、かつ教育実習の時の非教育者の創作活動の分析をもとに、初等美術教育における効果的な自画像作成の在り方を考察していた。
こういう実践性、制作に血が通いかつ今後の可能性を感じさせるところが、見ていて面白いし、完成されたプロの芸術家の展覧会や作品やキュレーションの結果が高度に商品化された企画展では味わえない鑑賞のもう一つの醍醐味なのではないだろうか。
多分お節介だろうけど、好きな割りに創造性皆無の身としては、見ていて勝手に応援したくなる思いがする。

 

f:id:stephanetanguero:20190223161524j:image
f:id:stephanetanguero:20190223161519j:image
f:id:stephanetanguero:20190223161509j:image
f:id:stephanetanguero:20190223161514j:image

大きな美術館の展覧会は非常に好きだが、それは芸術鑑賞という行為の一側面でしかないし、そのような企画展では見えないもの、できないことも実はたくさんある。
逆に、このような学生の制作展でこそ見えてくるものがある。
それは、上記のように制作に当たる個人の動機付けや将来への願望、総じてパーソナリティが非常に露骨に現れていることである。
完成された「作品」ではなく「制作」という行為、特に発展途上のこれから未来に向かう政策の在り様が、「過去の偉人」「世界に一つしかない銘品」ではなく、誰にでも起こり得る事件としていわば等身大に迫ってくる。
それこそが、心に訴えかけるのである。
(無論、好みとかこちらの感性、理解の問題もあるのですべての作品にそう感じるわけではない)

今後もこういう場は探していきたい。
地方にいて大都会ほど大きな美術館の有名な企画展がない分、こういう機会に出会えてよかったと思う。

*許可を得て、撮影・掲載しております。