日々雑感

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フェルメール 『小路』

図書館で調べ物をしていて、おもしろい絵に出会った。

この画家のことを調べていたわけではないのだが。

 

フェルメールの風景画といえば、デルフト眺望が有名であろうが、この小路は、立った二つの風景画のうちのもう一つ。

前者に比べると少し地味な作品なのかもしれないが、よくよく見ると非常に面白い一枚である。

 

小路に面した赤レンガの長屋風の建物。

建物の所々は痛み、上部の方は窓がとれている。決して悠風ではない、しかし生活感のあふれる街の一角

長閑でありながら、どこか哀愁に満ちた風景。

壊れた窓や痛む壁面は、生活の貧しさ、苦しさなどのリアリティを象徴しているともとれる。

 

4人の、召使い風の女性が見える。みなこの建物の住人、所有者の下で働いているのであろうか。

少なくとも、身なりや立ち居振る舞いからはそう推察される。

主人の姿、気配は見えない。

 

割と少なく、落ち着いた色彩。

構図は美しく、静かではあるが、よく見るとどこかアンバランスで意図的なものを感じさせる。

斜めに空が切り取られ、上部のほんの一部分だけに青空(これもフェルメールの青といえるか)がのぞいている。

青空が見えているのはこの本の一部であるが、それでも斯様に明るい雰囲気の絵となるのは、不思議である。

建物も、中央を少し超えたところで、そして頂上部の少し下から絶妙に切り取られている。この微妙な線引きが不思議。

 

小路をのぞき込む角度も微妙

厳密にいうとあり得ない角度で小路が描かれているように見える。

人間より少し高い視点なのに、その中を覗き込むように奥まで見えているからだ。

果たして幾何学的にこのような角度に見えることがあるのか疑問。

これも、意図的なものではないか。

覗き込まれた小路の奥には、女性が一人。

腰を曲げて黙々と働いている。

この絵画の不自然な視点は、この女性を、この世界に一人の召使いの女を、敢えてのぞき込もうという画家の心意気なのだろうか。

この女性は誰なのだろうか。よく見ると他の3人とも少し違う、鮮やかな色の服を着ている。

スカートは、フェルメールの青ではないか。

そう思うと、この古ぼけた街並みが急に人間味あふれいとおしく見えてくる、読めば読むほど味わい深い、そんな一枚である。

 

フェルメール 小路

アムステルダム国立美術館 所蔵 ヨハネス・フェルメール「小路」