日々雑感

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対話型鑑賞を体験 芸術鑑賞への新発見

こんにちは。いかがお過ごしですか?

今週末は、対話型鑑賞を体験してきました。

気づきの連続の1日となりました。

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今年も益々アートな一年にしたいと思っていますが、今年特にしてみたいことの一つが、対話型鑑賞へのチャレンジです。

 今回は、プロトマニアさんで、中尾陽一先生が定期的に開催されている鑑賞会に参加してきました。

 

○対話型鑑賞とは何か

私も学び始めたばかりですので、厳密な説明を行うことは難しいのですが、複数人からなるグループで絵画等を見ながら、その意味や解釈に関する対話を行う鑑賞方法です。

静かな環境の中、一人でじっくりと絵と向き合うという、美術館で一般的にみられる光景とはかなりかけ離れた、ある意味対極にあるやり方です。

その意義は、作品の鑑賞そのものにとどまらず、それを通じた観察、解釈、理論的考察、他の可能性を受け入れ、考察する力など、複合的な能力の育成に効果があるとされています。

 

対話型鑑賞の代表的なものは、ニューヨーク近代美術館MoMA)において開発されたVisual thinking curriculum (VTC)及び、MoMAにおいてVTCの開発にも関わったフィリップ・ヤノイ氏がVTCを基に独立後に体系化した、Visual thinking strategy(VTS)です。

前者のVTCが美術館における来館者向けの(一般的なイメージとしては学芸員による作品解説、ギャラリートークでしょうか)作品鑑賞のプログラムであるのに対し、後者のVTSは、主に教育において、子供の知能を開発するために活用されます。

昨今では、子供のみならず大人に対しても効果があることから、特にビジネスの世界において昨今注目が高まっています。

 

 

 Visual thinking strategy のHP

vtshome.org

 

 

日本でVTSに関する教育を実践している、京都造形芸術大学 アートコミュニケーションセンター(ACOP)のHP

www.acop.jp

 

 

○鑑賞会のやり方

鑑賞会は、2枚の絵をベースに前段後段に分かれて行われ、約2h30′、参加者は10名弱でした。

割と小ぶりな会議室のようなスペースで、アットホームな空気の中で行われていました。

 

まず、この会を特徴づけるのが、参加者の皆さんの多様なバックグラウンドです。

講座の最初に参加者の自己紹介の時間が設けられ、それぞれの御職業、アートへのかかわりや対話型鑑賞・VTSに対する思いなど

バックグラウンドは、アートに興味を持たれているビジネスパーソン、元コンサルの会社経営者から、教育者、アート関係の仕事をされている方、クリエイティヴ・ディレクター、等。

講座名が「ビジネスパーソンのための対話型鑑賞会」で題材がアートですので、確かに理にかなったメンツでしょうか。

芸術鑑賞については、アート関係者以外にも多くの人が趣味とされているようでしたが、中には芸術鑑賞はほとんど未経験、最近興味を持て、という方もいらっしゃり、興味深いなと思いました。

 

鑑賞会のメインである鑑賞が始まると、講師のファシリテーションのもと、「対話」が始まります。

ファシリテーションといっても、特に発言の順番や方法など細かいルールが定められているわけではなく、絵を見て感じたことをめいめいが自由に発言していきます。

ここで交わされる対話というのが、絵画において何が起きているか(何故そう解釈するか)という、各人の観察の内容です。

何が正解、というものではなく、各人がそれぞれの感じたことを自由に発言していきます。

 

ただし、そこで重要になるのが、単に主観的に「こう思う」と断定するのではなく、なぜそう思うのか、観察による根拠の明示です。先述のVTSは、参加者の自由な思考を促し、知識偏重の会話になることなどを避けるため、以下の3つの質問のみによって進行されます。

 ○ この絵で何が起きているか?

 ○ どこからそう思うか?

 ○ 他には何があるか?

このVTSの目的は観察力・思考力の涵養にあるため、このような問いかけが為されます。

知識を問うような会話になると本来の目的である観察と思考からそれてしまうため、上記以外の質問やコメント、例えば画家や作品に関する絵画史的な知識ものは禁止されているのが、VTSの特徴です。

 

VTSでは、上記の3つ以外の質問、会話は行われないというルールがありますが、本会では、合意の上で、対話の後に作品や作者、絵画史的な時代背景の解説を聞くことが出来ました。

VTSの観点からは必要のない知識ではあるのですが、もともと絵画(史)に興味のある自分にとっては、それもまた面白いコンテンツでした。

 

また、明示的なルールではありませんでしたが、「対話」が上手くために、

【鑑賞者側】

 ○ 他者の意見はすべて尊重する(アートに答えはない)

 ○ 他者の見解を踏まえ、発展させるような考察、発言は推奨される

ファシリテーター側】

 ○ 特定の個人に発言が偏らないよう適宜に采配する

 ○ わかりにくい発言があれば、上手く敷衍し他の参加者との共有を図る

といった作法は必要であろうと思いました。

 

 ○今回の題材の一枚はこちら(2枚のうちの1枚)

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この一枚をめぐり、様々な意見が交わされました。

 

 ・ この2人の関係は?

   一見全く違う服装をしていて異なるクラス(階級)にも見えるが、それにしては密着しているし、よく見ると日焼けや顔の形など、共通点が多い。

   しかし、密着している割には視線が重ならず、どこかよそよそしささえ感じる。

 ・ ここはどこか?

 ・ 2人が座っている場所は?

   古びた車。なぜ古びた車に座っているのか?

  ・ どのような場面か?

   若い男性はどこへ行くのか?足元には本と手荷物が見える。

 など。1人で鑑賞していてはまず気づかないであろう細かい点や、多様な視点が非常に新鮮でした。

 
○実際に体験して、感じたこと
 -アートとは何か

アート、中でもFine Art (訳は、名作、でしょうか)と呼ばれる作品の条件は何でしょうか。

・高名な画家が描いていること

・とにかく、美しく綺麗なこと

・題材が歴史的に重要なシーンや有名な人物を描いていること

・描写が緻密であること、また技法が一般的な規則に則っていること

・過去に高価な値段がついていること

勿論様々な視点があり1個の正解はないでしょうが、この対話型鑑賞を通じ実感したものの一つ、それは

・ アートは、見る人に疑問(問いかけ)と気づき(発見)を与えるものである、ということです。

 (もちろん、美しいことは大前提でしょうが)

 解釈、答えが誰の目にも分かり切った表現や題材は、見る人の心をとらえたり揺さぶったりすることは出来ません。一見よくわからないからこそ引き込まれ、様々な解釈を巡って知恵を絞らされ、そして気づきを得たときの感動が大きくなるのではないでしょうか。

 

 ーどんな作品が、対話型鑑賞・VTSに適しているか

 海外にも、VTSに適したものとそうでないものがあるな、と思いました。

 適していない、という表現は不適切かもしれませんが、抽象的すぎるもの(まさに抽象絵画)やストーリー性のあまりない静物画、風景画などは、読み解くのが難しいのかと。逆に登場人物やその感情表現などの構成要素が多い絵画ほど、

 

 今回の気づきを参考に、細かく観察をしていくと共に、対話型鑑賞に適した絵画か、という観点でみていくのもまた、違った面白さがあるのでは、と思います。

 

 

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 皆さんは、どのように鑑賞していますか?

 これまで見てきた中で、対話型鑑賞にとっておきの絵画はありますか?