日々雑感

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ブックレビュー『組織開発の探究』

組織開発の探究

中原淳、中村和彦  

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組織開発の定義から始まり、これまでの発展の経緯、現代の最新の組織開発の議論や今後の展望を幅広く論じている組織開発の概説書。ちなみに組織開発とは、著者によればる(成果を出させる)ための働きかけである」と定義される

 

その他従来の一般的な定義がいくつか紹介されるが、どれも抽象的で包括的である。
この言葉の定義は、語義から一見感じるような、「新しい組織を立ち上げる」類のものではなく(広義にはそれも含むのであろうが)、あくまで既存の組織に対する働きかけである、点がポイントかと思う。
「今、ここ」にあるのも決して完成形ではなく、機能し続けるには不断の生成が必要である、という世界観なのでしょうか。
特にこの本の興味深いところは、ハウツー的な手法論だけでなく、むしろその背景となる思想的系譜を丹念に追っている点であるかと思います。
デューイやフッサールフロイトは、それぞれの分野で何となく名前と存在は知っていましたが、今日の組織(というか組織観)の問題にこのような現れ方をするという視点は非常に新鮮でした。
(ただ、この歴史的系譜の枠組みは、綺麗に描かれすぎていて本当にこの通りなのかという疑問がないわけではなく。)
また、その後も(特に日本において)組織開発の概念がどのように導入され、また誤解され、更に最近復活してきたかという分析も、組織開発の概念を多面的に理解するうえで非常に示唆深いです。
社会科学の概念は実践的なテーマであればあるほどどうしても現代的に捉えてしまうものかもしれませんが、こうして歴史を紐解くことが概念理解(「経緯」だけでなく、「概念」そのもの)には不可欠ということなのでしょう。
一方裏返すと、概説・概史による理解に主眼を置いた記述であり、今日の個々の問題に対するハウツーを提示しているものではない。(後半で一定量ケーススタディは紹介されるけれど。)
手厚い包括的マニュアルのようななものを期待して読むと最後の最後まで肩透かしを食らうと思います。(やや食らいました)
学術書とビジネス書のバランスをとろうというスタンスのためか、学術書としてもビジネス書としてもやや長大かつやや不足感は否めない。
実務家としても、研究的立場としても、自分の直面する課題やテーマによって更に分野を絞って読み進めていくための見取図的な立ち位置になるかと思われる。
以下、考察
診断型組織開発と対話型組織開発について
両者が表面的な手法の総意ではなく基盤となるマインドセット、世界観を異にするものであることは分かったが、実践の場において実際にどのような関係にあるのかが問題となる。
実際にこれらは二項対立的に分けられるものであろうか。また、診断型~にも、対話がある、のはいいとして、対話型には診断フェーズがない、というのは本当であろうか?
(本書中にもこの問題は取り上げられているけど)
当たり前まえだけど実践的でありかつ数値化、可視化の難しい人間的事象を扱っているので、このあたりの理論実践の関係はなおのこと難しい。
結局どうするのかは、全くフェーズは違うけど尚のこと難問。
ただし、組織を活性化するために、「診断」「議論」ではなく「対話」が必要なこと、また合理的な前2者が構成員の警戒や抵抗、過去の恨みつらみなどい色々なものを孕んで上手くいかないどころか場合によってはむしろ短期的に問題を悪化させることもある、ことは経験的にも非常によく分わかる。
この辺りを体系的に使えるようになるかどうかが、組織と人を上手く使えるかのカギなのであろう。