日々雑感

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備忘 フランソワ・ミレー展 三菱一号館美術館

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丸ノ内の、三菱一号館美術館に行ってきました。

ミレーとは、19世紀フランスで、当時芸術としては市民権を得ていなかった、農民や農村の風景を、絵画に積極的に取り上げた画家です。生まれ故郷を離れ、パリ近郊のバルビゾン村にて、生涯その風景を描き続けました。

その斬新な絵画は賛否両論を巻き起こし、異郷のアメリカや日本でその革新性が高く評価される一方、母国フランスでは概して酷評を受け続けました。先述の、テーマがその理由です。

そして、富や名声とは程遠い、孤独な人生を送るのですが、それでも一途に作品を描き続けました。彼がいわゆる「農民画家」と呼ばれる所以です。

特に、「種まく人」はポスターにも使われ有名ですが、これには非常に感銘を受けました。この作品は、畑に種を蒔く1人の男の一瞬を、至近距離から見上げる躍動的な視点で捉えたものです。

当時無視や蔑視の対象ですらあった農民、その1人の人間に焦点をあて、これでもかとばかりに力強く大地を踏ませている。
世の中の既成概念に逆らい、見落とされし者に命と美を吹き込もうという創作への執念のような物が感じられました。
それ以外の作品たちも、農村の様子や家庭内の平和な風景が描かれ、他愛ないもの小さきものへの眼差しで溢れていました。

また、それ以外にも、カミーユ・コロー初め、同時期の影響を受けた画家たちの作品が紹介されており、バルビゾン派の多彩な仕事を見ることが出来ます。

明日までということで1時間くらい並びましたが、観られて本当に良かったです。



余談ですが、なんで絵画は価値があるのだろう、とふと考えていました。
なんで人は、絵を観たくなるんだろうか。

それは一言でいうと、それが感性と表現の自由の象徴であるから、かなと。

今、私たちは、好きな時に美術館へ行き、ファーストフード一回分くらいのお金で偉人たちが黙々と描き出してきた名作に触れることが出来ます。
これらの多くは、かつては戦乱で奪われたり権力の館の奥深くに眠らされていたものです。またそもそも民衆の材料では叶わない奢侈行為だったでしょう。

また、現在では、多くの優れた芸術家が、自由に表現し、我々はその恩恵に預かることが出来ます。これも当たり前のように感じられますが、これほど表現の自由が浸透したのは、ごく最近、しかも未だ世界に一部の地域におけることです。

好きなものを好きなように描く、それが誰にも暴力をもって否定されず、いつでも美しいものを美しいと感じる事が出来る。これは、人類の歴史にとってほんの最近一瞬の、奇跡的な出来事です。

絵画はもちろん多々ある芸術芸能の一つに過ぎませんが、その様な尊い努力の結晶の一つである事は間違いありません。

それは私たちがしかと受け取り、伝えていかねばならないものでもあるのです。子供たちにも、こんな感動を味わってもらうために。

余談の方が長くなってしまいましたが、ミレーという、頑なに己の美を追い求めた求道者に、改めて心から敬愛の言葉を送りたいです。