日々雑感

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東京オペラシティ アートギャラリー 白髪一雄展へ

 

東京オペラシティ アートギャラリー 白髪一雄展
1月11日(土)〜3月22日(日)

 

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今回、初めて行く美術館を訪れ、これまた未知の画家と知り合うことが出来ました。

本美術館は、その名の通り、初台駅を降りてすぐのオペラシティの一角にあります。

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最初は、大型文化施設の一角の展示スペースかな、というイメージでしたが、2階建ての広々とした展示スペースにて行われる企画展、常設展のベースとなるコレクションも有しており、れっきとした美術館でした。もっと早く来なかったことが悔やまれます。

 今後も、モダンアートを中心に、充実した展覧会を開催しているようです。

 白髪一雄展

 

www.operacity.jp

 

 白髪一雄について

 画家は、1924年尼崎生まれ、戦後日本では中心的な前衛画家であったようです。その画業はこれから見ていくように、床に広げた支持体に足で直接絵具を広げて描く「フットペインティング」と呼ばれる斬新なもので、絵筆からは想像しにくい非常に力強く躍動する作品を生み出しました。

 今回は東京で初の大型個展のようです。初めて訪れる美術館で始めての画家に出会えた幸運に感謝しつつ、作品を鑑賞してみましょう。

 

画家の画業の印象

 

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 フットペインティングで描かれた作品はとても力強く、ザラザラ、というよりギザギザ、とでもいった方がいいような質感を持っています。まるでコラージュでもしているのか、と思うほど厚塗りの絵具の部分があり、原色中心の配色と相まって強烈な印象を視覚に浴びせてきます。

 一方で、ただ力強いだけではなく、安心して観ていられる構成美があります。大きなキャンパス全体に大胆に絵具が塗られていますが、その一方で、全体がつぶれないような空白部分が上手く配列されていてバランスが保たれています。

 また、色彩もよく考えられているなと思います。赤、黒、青など原色系の強い発色で占められていますが、その中でも全体がつぶれすぎないように上手く配色されています。上述の空白とあいまり、白がよく効いているのだと思います。

 抽象画は、一見何が書いてあるか分からず「難しい」と思われるのが一般的かもしれませんが、そういったことはいったん忘れて絵そのものの美しさに浸ってみるのがいいのかもしれません。

 

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画家の遍歴

 写真は撮れませんでしたが、彼の初期の作品も展示されています。こちらは抽象画ではなく、オーソドックスな風景画がほとんどでした。大胆な作風に移行する前の40年代には、彼の生まれ故郷である尼崎ののどかな風景を描いた水彩画や素描を描いた作品が多く作成されています。それらはみな、写実的で情緒的で、その後の彼の抽象画からは想像しにくいような穏やかな作風のものばかりです。作風としては全く違うのですが、このようなベースがあり、その際にあのような作品が描かれていったのでしょう。

 彼の所縁の地にある尼崎市総合文化センターには、「白髪一雄記念室」が併設されているようです。

www.archaic.or.jp

 

なぜ人は抽象画を描きだすのでしょうか。

 抽象画は難しく、何を描いているのかが分からない、という声はよく聞きます。私も何か、が分かることはほとんどありません。ただそれでも、絵そのものを見ていると、美しさや共感を感じることがあります。画家はなぜ、このような一見何が書いているのか分からない絵を描くのでしょうか。

 抽象的なものを描いているので、そもそも具体的な何か、ではないのでしょう。絵画は、歴史の中で、描く対象や手法を進化させてきました。初めは、歴史や神話、人物といった公的なものを描き、そして風景や世の中の人々といった外面的なものを描き、やがて見えるものをみえるように(写実的に)描くのではなく、自己の内面を投影して描く、見えるものに見えない内面を委託して描く、という手法が現れます。

 あのピカソなどもそうですが、抽象画家はもともとは具象的で非常に写実的な絵を描いていることが多いです。この白髪一雄もそのような遍歴のようです。

 具体的な目の前にある何かを描きながら、そこでは収まりきらないものと向き合うようになり、やがてそれがほとばしるように、キャンバス上の絵具へと変身していく。抽象画は、画家の内面そのものが投影されたなのかもしれません。

 このような作品は、目に見れるものを見るという行為になれた私たちに、そうでないもの、本来見えないはずのものに目を向け何かを感じ取るという挑戦を、突きつけているようです。

 

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常設展

 本展覧会では常設展も開かれていました。

 コレクターの寺田小太郎氏のコレクションです。キリスト教をモチーフにしたシュールレアリスム現代アート風の絵画が多く展示されていました。私のお気に入りの香月泰男氏の作品もあるのには驚かされました。山口から遠く離れたこの地でもコレクションされていたとは。

 香月泰男氏についてはこちら

 2019年の振り返り① 香月泰男氏との出会い(山口の思い出) - 日々雑感

 別室では、若手画家の今井麗さんの個展が開かれていました。

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爽やかでユーモアを垣間見せる作風です。今後白髪氏のようになることはないかもしれませんが、どのような作品を生み出していくのか楽しみですね。

 

 

今後も様々な企画展が開催されるようです。

普段聞かないコンサートや演劇などとあわせて、これからも注目していきたい美術館の一つです。

また、尼崎市に行った際には、是非訪れてみたい画家でもあります。

東京オペラシティ アートギャラリー はこちら

www.operacity.jp