日々雑感

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江戸の戯画展、北斎漫画など。

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【江戸の戯画】

思いがけず素晴らしい企画展を観た。
大阪市立美術館の「江戸の戯画」展、最終日に駆け込み。
当初そんなに期待していなかったが、またもや無知を思い知らされた!

戯画とは、人や動物をユーモラスに描く技法で、18世紀の江戸で広まり、葛飾北斎歌川国芳河鍋暁斎などの巨匠によって更に洗練されていったようです。

鳥羽絵と呼ばれる戯画のルーツを観ると、その後の戯画のベースとなる非常に豊かでダイナミックな、そしてユーモラスな人物表現が満載。
愛嬌溢れるキャラクターは本当に現代の漫画を見ているような錯覚に襲われて、驚かされた。

昔から人は、遊び心に満ちて、剽軽で軽妙洒脱な表現を楽しみ、またそれらに心癒されていたのであろう。
どこか、古典文化は高尚であり、それが廃れて今は低俗で卑猥な文化が流行ってると(かなり極端な言い方をすれば)いう見方がないわけではない。
しかしこれらを観ると、そんな事はない、どころか、昔から人は似たようなものを愛でていたのだという事がよく分かる。

鳥羽絵を発展させた北斎の戯画世界も興味深い、まるで一個の小宇宙のよう。
北斎といえば風情豊かな浮世絵の風景画を思い浮かべるが、ここにある作品、また北斎漫画などは、遊び心と突飛な表現に満ち満ちている。
豊かな感情表現、実験的とすら言える人体の激しい躍動、生活の場面のほんの一瞬をシャッターで切ったような鋭い観察眼、そしてそれらを統べる巧みな技巧。

ぱっと見の雰囲気は違うが、これらの膨大な試行錯誤があればこそ、あの斬新で独創的な作品群が生まれたのではないか。
一概にリニアな因果関係に置き換えるのは乱暴かもしれないが、少なくとも、浮世絵に息づく重要な構成要素はこれら戯画の中に十二分に見いだす事ができた。

戯画のもう一つの主役は、動物たちである。
これがまた面白い、を通り越してよくもここまで擬人化したものだと感心する。
最早人間を通り越す人間臭さ。
ここには、人間界と自然界、観察の主体と客体といった、近現代の二元論的な世界観は全く感じられない。
良い悪いの世界ではなく、江戸までの日本人って、こんな風に世界を観てたのかなとふと思わされる。
動物の擬人化というより人間側からの没入とでもいうべき一体感である。

他にもここには書ききれない多くの示唆に富む展示であった。
笑いは昔から人の心の根底にあるし、もしかするとご先祖様は、色々大変な世の中をそんな風に乗り越えようとしていたのかもしれない。
もうちょい早く行けばよかった。

 

この機会に、以前買った、浦上満氏の『北斎漫画入門』を読み直してみようと思う。

これは作品としては勿論、北斎の作風を形成するに一役買った習作群としても、極めて貴重な資料であると思う。

北斎漫画入門』

https://www.amazon.co.jp/%E5%8C%97%E6%96%8E%E6%BC%AB%E7%94%BB%E5%85%A5%E9%96%80-%E6%96%87%E6%98%A5%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E6%B5%A6%E4%B8%8A-%E6%BA%80/dp/4166611453

こっちはちょっとヘビー。

勿論、持ってない。ミュージアムショップで売っていたが、流石に手が出ず。

北斎漫画』

https://www.amazon.co.jp/%E5%8C%97%E6%96%8E%E6%BC%AB%E7%94%BB-%E6%B5%A6%E4%B8%8A-%E6%BA%80/dp/4756240690

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